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松山地方裁判所今治支部 昭和50年(ワ)43号 判決 1979年6月08日

原告

高見ツヤ子

ほか三名

被告

大西町

ほか一名

主文

一  被告らは各自、原告高見ツヤ子に対し金二一二万四六三三円、原告高見和成、同内野千恵、同高見健二に対し各金一一七万九七五六円並びに原告高見ツヤ子につき内金一九二万四六三三円、その余の原告らにつき各内金一〇七万九七五六円に対する昭和四九年八月二四日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを九分し、その四を被告らの連帯負担とし、その五を原告らの負担とする。参加によつて生じた訴訟費用は補助参加人の負担とする。

四  この判決の第一項は、被告大西町に対しては無担保で、被告村上に対しては原告高見ツヤ子において金五〇万円、その余の各原告において各金二五万円の担保を供するときは、その被告に対して、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自、原告高見ツヤ子に対し金四五四万五五一七円、原告高見和成、同内野千恵、同高見健二に対し各金二七六万三六七四円及び原告高見ツヤ子につき内金四三一万二一八二円、その余の原告らにつき内金各金二六〇万八一一九円に対する昭和四九年八月二四日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故現場の道路状況

本件事故現場は、愛媛県越智郡大西町九王甲二六九四番地先交差点である。右交差点は、南北に通ずる県道大西波止浜線があつて、そこから、西方へ町道向山線が、東方へ町道藤ケ崎線が延びていて、ちようど十字路を形成している。右県道の幅員は一応五メートルとされているが、道路の両側にかなり幅広い路肩があつて、有効幅員はわずかに三・二メートルないし三・五メートルで、路肩を除く中央部分のみがアスフアルト舗装されている。右各町道の幅員は更い狭い。

被告大西町は、右町道の地下に上水道管を敷設する計画を立て、それが右交差点で県道を横断することになるため、県道の占有につき、工事として、旧舗装部分をカツターで切断し、従〇・六メートル、幅(道路幅)五メートル、深さ一・三〇メートルにわたり道路を掘削し、水道管を敷設したうえ、土砂を埋戻し、そしてアスフアルト舗装することを条件に、県道管理者の許可を受け、昭和四九年八月一一日頃上水道工事の請負人である被告大西町補助参加人白鞘電気水道株式会社(以下単に「補助参加人」という。)をして、右県道部分を掘削し埋戻しまでの工事を施行させた。しかし、アスフアルト舗装工事は訴外日本舗装株式会社高松支店に請負わせることにしていたので、その工事は施行せず、そのまま右工事部分の県道を支配管理し、もつてこれを占有していた。

ところが、右工事個所の路面は、埋戻し当初は既舗装面と一応平坦であつたが、ただ土砂を埋めたに過ぎなかつたため、その後車両の通行により土砂が散逸し、次第にくぼみを生じ、本件事故発生当時は、道路中央部分はそれほどでもなかつたが、道路の両側部分特に道路の西側部分においてくぼみがひどく、縦〇・六メートル、幅一・五メートル、深さ八センチメートルないし一〇センチメートルの大きなくぼみとなり、しかも、そのくぼみは旧舗装面から急角度に低下し、くぼみの中にも大小幾多の凹凸があつて、車両特に二輪の車が通るとすれば、車がバウンドし、ハンドル操作の自由を失い、転倒その他の危険があり、その運行の安全を欠く状況になつていて、交通に支障のある瑕疵があつた。

2  本件事故の発生状況

原告高見ツヤ子の夫で、原告高見和成、同内野千恵、同高見健二の父である亡高見清春は、昭和四九年八月二四日午前七時二五分頃、自動二輪車(以下単に「亡清春車」という。)に乗つて時速約三〇キロメートルで前記県道を北進して前記交差点の手前に差しかかり、前記工事個所においてはくぼみの少ない道路中央部分を通るべく、あらかじめ道路中央寄りを進行して前記工事個所を通り抜けようとしたのであるが、折から前方に被告村上運転の軽四輪乗用自動車(以下単に「被告村上車」という。)が対向南進して来るのを認めた。しかし亡清春としては、自車が被告村上車よりも先きに交差点に入るタイミングであつたので、同車とすれ違う前に右工事個所を通過することができると考え、工事個所近くまで進行したところ、意外にも、被告村上車が無謀にも時速五〇キロメートル以上の高速で進行して来るので、そのままでは同車と衝突する危険を感じ、これを避けるべくハンドルを左に切つたところ、同所には前記の如く大きなくぼみがあつたため、そこに落ち込み、ためにハンドル操作の自由を失い、道路右側に逸走し、ちようどそこに進行して来ていた被告村上車の前部と衝突し、亡清春は道路上に転倒するとともに同車の下に巻き込まれ、よつて、同日午前七時四五分頃救急車で今治市内の病院に運ばれる途中、同市弥栄通り茶道バス停留所前において脳挫傷のため死亡した。

3  被告らの責任

(一) 被告大西町は

(1) 前記の如く土地の工作物である道路の工事部分を占有していたものであるところ、右工事個所には前記の如きその設置に瑕疵があり、本件事故はその瑕疵によつて生じたものであるから、民法七一七条又は国家賠償法二条により本件事故によつて生じた損害を賠償すべき義務がある。

(2) 仮に右主張が認められないとしても、被告大西町の代表者である町長天野信義は、前記の如く県道の占有につき道路を掘削して埋戻したうえテスフアルト舗装工事をすることを条件に、県道管理者の許可を受けていたのであつて、土砂を埋戻しただけでは路面にくぼみが生じ交通に支障が生じることは容易に予想し得るところであるから、逸早く舗装工事を施行するなどして交通の安全を確保すべき注意義務があつたのにかかわらずこれを怠り、旬日余にわたつて、右工事個所を未舗装のまま放置した過失があり、本件事故は右過失に起因するものであるから、民法七〇九条により前同様本件事故によつて生じた損害を賠償すべき義務がある。いずれにしても、被告大西町は本件事故につき損害賠償の責任を免れることはできない。

(二) 被告村上は、被告村上車を保有するものであり、かつ、右自動車を運行の用に供していてその運行により亡清春を死亡させたのであるから、自賠法三条により本件事故によつて生じた損害を賠償すべき義務がある。

4  損害額

(一) 逸失利益 金一三七三万六五四一円

原告ツヤ子金四五七万八八四七円、その余の原告ら各金三〇五万二五六四円

(1) 給与所得 金八九一万五八〇六円

亡清春は大正七年五月一〇日生れで本件事故当時五六歳であつたが、健康で今治市波止浜所在の真鍋造機株式会社に仕上工として勤務し、月平均金九万五一三三円の賃金を得ていた。それに事故年度の夏期賞与として金一六万一四二七円を受け、冬期賞与として金一七万九七一三円を受ける予定であつた。右会社には定年制もなかつたから、清春は、本件事故がなければ六七歳までなお一一年間右会社で稼働し、右程度の収入をあげえたはずである。しかるに、本件事故によりその利益を失つた。右を基準とし、生活費として収入の三〇パーセントを控除し、ホフマン方式により事故当時の現価額を計算すると、右損害額は金八九一万五八〇六円となる。

95,133×12+161,427+179,713=1,482,736

1,482,736×(1-0.30)×8.59011077=8,915,806

(2) 農業所得 金四八二万〇七三五円

亡清春は、本件事故当時、前記真鍋造機株式会社に勤務するかたわら、田三五アール及び畑(果樹園)五〇アールを自作し、次のように、事故年度において金六五万六三二九円の農業収益を得ていた。

収入 七三万六六七九円

内訳

米 一八万五四一六円

みかん 二五万五九三三円

ごぼう 一二七八円

もも 二五万八四四八円

なし 三万一三二九円

えだまめ 四二七五円

必要経費 八万〇三五〇円

差引 六五万六三二九円

ところで、亡清春は会社から帰宅後や、日曜祭日をフルに利用し、農作業に従事したのであるが、妻である原告ツヤ子にも若干手伝わせていたので、同女の寄与率を考慮し、右収益の八〇パーセントは亡清春の勤労によるものとみるのが相当である。ところで、亡清春は健康であつたし農業規模も右のようなものであるから、本件事故がなければ七五歳までなお一九年間右の農業を営み右程度の収益をあげえたはずである。しかるに、本件事故によりその利益を失つた。以上を基準とし、生活費として収益の三〇パーセントを控除し、ホフマン方式により事故当時の現価額を計算すると、右損害額は金四八二万〇七三五円となる。

656,329×0.80×(1-0.30)×13.11606764=4,820,735

従つて、亡清春は被告らに対し逸失利益として右(1)(2)の合計金一三七三万六五四一円の損害賠償請求権を有していたところ、同人の死亡によりその相続人である原告らが法定相続分に応じ、原告ツヤ子はその三分の一である金四五七万八八四七円、その余の原告らはその九分の二である金三〇五万二五六四円ずつの損害賠償請求権を取得した。

(二) 慰藉料 原告ツヤ子金二六六万六六六九円、その余の原告ら各金一七七万七七七七円(合計金八〇〇万円)

前記の如く、原告ツヤ子は亡清春の妻、その余の原告らはその子であるところ、清春は健康で原告らにとつてよき夫であり優しい父であつた。それが本件事故のため突如として幽明を分つこととなり、しかもその死に様があまりにも悲惨であつただけに、原告らの精神的苦痛は堪えようもないほど甚大である。その苦痛が慰藉さるべき額は原告ツヤ子につき金二六六万六六六九円、その余の原告らにつき各金一七七万七七七七円ずつ(合計金八〇〇万円)を下るものではない。

(三) 葬儀費用 原告ツヤ子につき金四〇万円

亡清春の葬儀費用として金五〇万六一〇〇円を要し、原告ツヤ子がこれを支払つた。本訴においてはそのうち金四〇万円を請求する。

(四) 損害の填補

原告らは昭和五〇年三月前記損害の保障として自賠責保険から金一〇〇〇万円の支払を受けた。それで、前記相続分に応じ、原告ツヤ子につき金三三三万三三三四円、その余の原告につき各金二二二万二二二二円ずつを右損害の填補に充てた。

(五) 弁護士費用

原告らは、被告らが本件事故による損害を賠償しないので、弁護士加藤龍雄に訴訟委任をし本訴を提起したが、そのため右弁護士に対し、着手金として金三五万円を支払い、また報酬金として右同額を支払う約束をしている。右費用は原告らが前記相続分に応じ負担しあるいは負担することにしている(その負担額は原告ツヤ子につき金二三万三三三五円、その余の原告らにつき各金一五万五五五五円ずつとなる。)。

5  よつて、原告らは被告ら各自に対し、前記第4項記載の(一)(二)(三)の損害額の合計から(四)の填補額を差引き、(五)の損害額を加えた、原告ツヤ子につき金四五四万五五一七円、その余の原告らにつき各金二七六万三六七四円及び右各金員のうち(五)の損害額を除く、原告ツヤ子につき金四三一万二一八二円、その余の原告らにつき各金二六〇万八一一九円に対する本件事故発生の日である昭和四九年八月二四日以降右各完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

(被告大西町)

1 請求原因1のうち、本件工事部分の県道を被告大西町が占有管理していたとの点は否認する。被告大西町は右部分について補助参加人に水道工事を請負わせたが、本件事故当時いまだ補助参加人より引渡を受けておらず、補助参加人が右部分の管理占有をしていたものである。

本件県道の工事部分に瑕疵があつたとの点を争う。本件県道上には埋戻しの後表面がわずかに、かつゆるやかに沈下したくぼみがあつたが、本件程度のくぼみでは、一般的には、通行する二輪車がハンドル操作の自由を失つて転倒する危険はなかつた。

2 請求原因2のうち、亡清春が本件県道上のくぼみにおいて転倒したことは認める。しかしながら、本件事故及び亡清春の死亡は同人の重過失に起因するものというべきである。

3 請求原因3(一)の主張は争う。前記のとおり被告大西町は本件県道の工事部分の占有管理者ではなく、また本件県道の工事部分に瑕疵はなかつた。

請求原因3(二)の主張も争う。

4 同4のうち、(三)の原告ツヤ子が葬儀費用として金四〇万円以上を出損したこと、(四)のとおり原告らが自賠責保険から金一〇〇〇万円の給付を受けていることは認めるが、その余は争う。

(被告村上)

1 請求原因1の事実は知らない。同2、4、5の事実及び主張は争う。

同3(二)のうち被告村上が被告村上車を運行の用に供していたことは認める。

三  抗弁

(被告大西町)

過失相殺

本件事故については、亡清春が前方を注視していれば本件のくぼみを容易に発見しえたはずであり、ハンドルを少し固く握るか、少し減速して通過すれば発生しなかつたはずのものであつて、右の如き注意義務があるところ、同人はこれを怠り、かつ被告村上車が目前に迫つてくるのを見てあわててハンドルを急角度に左に切つたために平衡を失つて転倒したものと思われるのであつて、同人には重大な過失があるから、損害賠償額を定めるにつきこれを斟酌すべきである。

(被告村上)

自賠法三条但書の免責事由

被告村上には被告村上車の運行に関し過失はなく、また被告村上車には構造上の欠陥又は機能上の障害はなかつた。本件事故は亡高見清春、被告大西町及び補助参加人の過失によるものであり、被告村上はたまたまその場所に行き合わして本件事故に遭遇したともいうべきものである。したがつて、被告村上には賠償責任がない。

四  抗弁に対する認否

いずれも否認する。被告村上は無過失を主張するが、事実は次のとおりである。被告村上は、前記自動車を運転し時速五〇キロメートル以上の速度で本件交差点にさしかかつたのであるが、右道路は最高速度毎時四〇キロメートルに制限されているところであり、かつ、右交差点は見通しの悪い交差点で道路幅も狭く、そのうえ前記の如く道路工事が行われていて路面に大きなくぼみがあつて、交通上危険な個所であるから、前方を注視して対向車両の早期発見につとめ、若し右交差点に先きに進入する対向車があるときは、本件事故のような不測の事態が発生するかもしれないことに思いを致し、減速徐行してその車両が工事個所を通過するのをまつて交差点に進入するなど、安全な運転をし、もつて事故の発生を未然に防止すべき注意義務があつたのにこれを怠り、無謀にも前記の如き高速のまま漫然進行し、見通しのきく直線道路であるにもかかわらず折から対向北進して先に交差点に進入して来ていた亡清春車を二二メートルの手前に至るまで発見しなかつた過失があり、その過失が重大であることはいうまでもない。

第三証拠〔略〕

理由

一  事故現場の道路状況

いずれも成立に争いのない甲第一、第三号証、第四号証の一ないし六、第五号証、第六号証の一ないし五、乙第二号証の一、二、証人片上正寛の証言とこれによつて真正に成立したものと認められる同第一号証の一ないし五、証人野沢英雄、同菅明、同森信夫、同山本春友、同白鞘忠信、同片山伝夫、同浅山英雄、同木元昭の各証言、被告村上本人尋問の結果(いずれも後記措信しない部分を除く。)並びに検証の結果によれば、次の各事実を認めることができる。

1  本件事故現場は、愛媛県越智郡大西町九王甲一四一四番地先交差点であるが、右交差点には、南北に通ずる県道大西波止浜線があり、右交差点から西方に大西町道向山線が、東方へ同町道藤ケ崎線が延びていて、若干変型ではあるが、ほぼ十字路を形成している。

右県道の幅員は、約四・二メートルでアスフアルト舗装されており、町道の幅員はいずれも約三・五メートルである。

2  被告大西町は、右町道の地下に上水道管を敷設する計画を立てたが、右上水道が右交差点において県道を横断することになるため、昭和四九年八月一日県道管理機関である愛媛県の今治中央土木事務所長に対し、占用のための工事期間を同年九月一日までの間の一日間として道路占用許可申請をしたところ、同月三日次のとおり許可がなされた。

(1)  占用場所 県道大西波止浜線 越智郡大西町九王一四一四番地

(2)  占用区域 口径一〇cm/m長さ五メートル

(3)  占用目的 上水道管布設

(4)  占用期間 昭和四九年八月三日から昭和五九年三月三一日まで

(5)  工事のための条件

工事は許可後三日以内に着手し、着手後三〇日以内に完成すること。

埋戻しの際は旧道路の構造と同等以上に復旧すること。

舗装復旧は埋戻し、支持力テストが終つた後、直ちに影響部分も含み旧構造と同等以上とすること。

舗装仮復旧及び本復旧は被告大西町において実施すること。

3  被告大西町はまた同年八月一日付をもつて今治警察署長あて道路使用許可申請をなし、期間を昭和四九年八月一日から同年九月一日までのうち一日間として許可を得た。

4  被告大西町は、同年七月三一日業者に対する入札を実施し、補助参加人が落札して工事を請負うこととなつたが、当時被告大西町の水道課長が病気で入院したりしていた等の事情のため正規の契約書をとり交わさないまま、補助参加人は工事に着手した。

右入札及び請負契約の際、水道工事後の舗装工事は契約の対象から除くものとされたが、被告大西町は県道上の部分のみについては水道工事業者が舗装工事を行うよう口頭で指示した(この点について証人白鞘忠信の証言中には右指示がなかつた旨の供述があるが、証人片上正寛、同浅山英雄、同木元昭の証言にてらし措信しない。)。もつとも補助参加人代表者は右指示について当初から認識を欠いていた如くである。

5  補助参加人は直ちに工事に着手し、被告大西町から盆までに完成するよう指示されていたため工事をいそぎ、本件県道部分についてはその工事の最後である同年八月一〇日の深夜頃から一一日午前四時頃までの間に掘削、水道管設置、埋戻しの工事を行つた(この間の八月一〇日、被告大西町から前記土木事務所長あてに工事着工届がなされた。)。工事は県道幅全体を横断して幅約一メートルないし八五センチメートル、深さ一・二メートルを掘削し、水道管を設置し、その上に土、プラツシヤー(砕石と土とを混合したもの)を入れ、ランマーで突き固め、更に重機で固めるものであつたが、前記の如く補助参加人は舗装義務がないと考えていたため、右以上に仮舗装又は本舗装は行わなかつた。

そして八月一一日早朝被告大西町係官に工事が終了した旨を報告したところ、同日漏水個所があることを指摘され、同日午後その修補を行い、被告大西町は同年八月一三日午前三時に給水を開始した。

6  右工事個所の路面は、埋戻し当初は既舗装面と同一の高さまで埋め戻されていたが、ただ土砂、砕石を埋めて固めたに過ぎなかつたため、その後車両の通行により土砂等が散逸して次第にくぼみを生じ、本件事故発生当時(八月二四日)には前記掘削個所について深さ二センチメートルないし八センチメートルのくぼみが生じており、くぼみは比較的道路東側部分のものが深かつた模様である。

このため、二輪の車が通るとすれば、車がバウンドし、ハンドル操作の自由を失い、転倒その他の危険があり、その運行の安全を欠く状況になつていた(現実にも本件事故以前に右工事個所で転倒した自転車や自動二輪車があつた。なお、証人白鞘忠信は、補助参加人が本件事故の少し前に被告大西町の係官に対し、本件工事部分が危険である旨を指摘したと供述するが、証人片山伝夫はそのようなことは聞いていないと述べている。)。

7  本件事故の直後被告大西町係官が補助参加人に対し、直ちに本件工事部分の仮舗装をなすよう強く指示したため、補助参加人は県道上の工事部分の仮舗装をした。なお、本件事故当時、水道工事に関する正規の最終検査を終了せず、工事完了届も受けていなかつた如くである。

その後被告大西町は、本件県道上の工事部分について業者に請負わせて同年一〇月に舗装工事を実施し、同年一〇月二六日今治中央土木事務所長あてに完了予定日を同月三〇日として道路占用工事完了届をなした。

以上の事実を認定することができ、これに反する供述等は措信せず、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

二  本件事故の発生状況

いずれも成立に争いのない甲第一、第二号証、証人野沢英雄の証言、原告健二、被告村上各本人尋問の結果(後記措信しない部分を除く。)並びに検証の結果によれば、次の各事実が認められる。

1  亡高見清春は、昭和四十九年八月二四日午前七時二五分頃、出勤のため自動二輪車(総排気量約七〇CCのもの)を運転し、時速三〇ないし三五キロメートル位で前記県道を南進して本件交差点にさしかかり、同交差点において県道の比較的中央付近の左側部分を通過しようとした。

2  一方、被告村上は軽四輪乗用自動車を運転して出勤のため本件県道を北進し、同一方向に進行する自動車とほぼ同速度である時速五〇キロメートル位(被告村上に対する本人尋問の結果中には、右とやや異なり、時速約四〇ないし五〇キロメートルであつたという供述があるが、前顕甲第一号証中の記載によつて前記のとおり認める。)で本件交差点付近にさしかかり、交差点の約二二メートル手前で初めて対向する亡清春車が交差点を通過しようとするのを認めた。

3  その直後、亡清春は本件交差点を通過しようとして前記くぼみのためハンドル操作の自由を失い、道路右側部分に逸走し、被告村上は、これを発見して直ちに急制動の措置をとつたが及ばず、右の地点から約一四メートル進行した地点で、前記くぼみの地点から約八メートル逸走してきた亡清春車とほぼ正面から衝突し、被告村上車はなお約一〇メートル進行して前記交差点をやや過ぎた地点で停止し、亡清春ははねとばされて本件交差点付近に転倒した。

4  右衝突により亡清春は同日午前七時四五分頃脳挫傷のため死亡した。

5  本件県道には道路中央線の表示がなく、また公安委員会によつて制限速度を時速四〇キロメートルと指定されていた。また、本件交差点は本件県道上から見て東側は見とおしがよいが、西側は家屋のため見とおしが悪い状況にある。

6  亡清春も被告村上も本件県道を通勤のため毎日通行しており、本件事故の際も両名とも出勤途上であつた。

以上の事実を認めることができ、右に一部指摘したほか右認定を覆すに足る証拠はない。

三  被告らの責任

1  被告大西町の責任

(一)  道路法一五条によると、都道府県道の管理はその路線の存する都道府県が行うべきものとされているから、本件県道の道路管理者は愛媛県である(なお、本件の場合県道と町道との路線の重複があるか否かは明確でないが、道路法一一条にてらすと、いずれにせよ県の管理下に置かれるものと解される。)。

ところで、前記一に認定したところによれば、被告大西町は右道路管理者から道路占用許可を受け、占用のための工事の着手届をなし、補助参加人に請負わせて工事を一応終えたが、本件事故当時いまだ工事完了届をしていなかつたというのであり、また工事については道路を従前どおり復旧(舗装)することが条件とされていたのにいまだこれをしていなかつたというのである。してみると、本件県道工事部分については、被告大西町もまた、少なくも事実上の管理義務があり、事実上の支配管理関係を有し、もつてこれを占有していたものというべきである。

また、前記一に認定したところによれば、本件県道の前記工事個所にはくぼみがあつて、車両ことに二輪車の通行に危険があつたものであるから、本件県道の工事個所にはその設置、管理又は保存につき瑕疵があつたものといわなければならない。

さらに、前記二に認定したところによれば、本件事故が右工事部分の瑕疵によつて生じたことは明らかである。

(二)  そこでまず国家賠償法二条の責任についてみるのに、同条の責任主体である公の営造物の設置又は管理に当る者(同法三条)には、公物・営造物に関する法令(本件の場合は道路法)上の管理者のほかに事実上の管理者も公共団体である限り含まれると解すべきではないかとも考えられるが、本件程度の事実関係の場合には、右のように断定するにつきなお疑問がある(国家賠償法二条二項参照)。

(三)  そこで、次に民法七一七条の責任についてみるのに、本件県道上の工事個所は同条にいわゆる土地の工作物ということができると解されるところ、本件のように県道という公の営造物の瑕疵が問題とされる場合には国家賠償法二条のみが排他的に適用されるべきであると解されなくもないが、必ずしも右のように国家賠償法二条と民法七一七条とを截然と区別して適用しなければならない必然性はなく、国家賠償法二条の適用がないときは、民法七一七条の要件をみたす限り同条の適用があるものと解すべきである。

そうすると、本件において被告大西町は、前記のとおり土地の工作物である本件県道上の工事個所を事実上支配管理し、もつてこれを占有していたものであり、かつその設置又は保存につき瑕疵があつたものであるから、民法七一七条により本件事故のため亡清春につき生じた損害を賠償すべき責任がある。

この点につき、被告大西町は本件事故当時補助参加人が本件工事個所を支配占有していたものであると反駁するが、前記一に認定したところにてらすと、補助参加人が被告らとともに不法行為責任を負い、あるいは民法七一七条三項の求償義務を負担することのありうることは別として、少なくも被告大西町もまた本件事故当時本件工事部分について支配管理関係を有し、これを占有していたことは否定できず、民法七一七条の責任を免れることはできない。

2  被告村上の責任

(一)  被告村上が前記軽四輪乗用自動車を自己のため運行の用に供していたことは、原告と被告村上との間に争いがない。

(二)  被告村上は自賠法三条但書の免責事由を主張するが、前記二で認定した事実によれば、本件県道は中央線はなく、制限速度が時速四〇キロメートルに指定され、西方の見とおしのきかない交差点であり、かつ本件工事個所に前記の如き危険なくぼみがあることを被告村上は知悉しており、また亡清春車が道路中央付近を進行した来たのであるから、被告村上としても、速度を一層減ずるとともに亡清春の動静に注意を払つて進行したならば、衝突自体は避けられないにしても本件事故のような重大な結果を招来しなかつたのではないかと考えられ、したがつて被告村上に過失がなかつたと認めることは困難であるといわざるをえない。

(三)  そうすると、被告村上も自賠法三条の運行供用者責任を免れないというべきである。

3  被告両名の責任の関係

前認定の事実によつてみると、被告大西町の責任と被告村上の責任とは、被告両名が共同の不法行為によつて亡清春に損害を加えたものというべく、被告両名は右損害につき民法七一九条により、(不真正)連帯して賠償責任を負うものと解すべきである。

四  過失相殺

前記二に認定した事実によれば、亡清春も本件道路を平素通行しており、本件のくぼみの存在を知つていたと推認でき、自動二輪車がかかるくぼみを通過するときは衝撃により操作の自由を失いがちであることは明らかであるから、同人としても十分減速し、ハンドルを適確に操作すべき注意義務があり、これらの点について亡清春にある程度の過失があつたことは否定しえず、前認定の事実を総合して考えるとき、その過失割合は被告両名が全体の四分の三(七五パーセント)、亡清春が四分の一(二五パーセント)とするのが相当である。

五  損害

1  逸失利益

(一)  給与所得

いずれも成立に争いのない甲第七号証の一ないし四、同第八号証の一、二並びに原告ツヤ子本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によると、亡清春は大正七年五月一〇日生れで本件事故当時五六歳であつたこと、本件事故当時真鍋造機株式会社に勤務し、一か月平均金九万五一三七円の賃金を得、事故年度の夏期賞与として金一六万一四二七円の賞与を受けており、また同年冬の賞与として金一七万九七一三円の賞与を受ける予定であつたことが認められ、これらに反する証拠はないから、亡清春は本件事故がなければ、就労可能年限である六七歳までなお一一年間右と同額の収入を得られたものと認むべきである。

よつて、亡清春の生活費として収入の三五パーセントを控除し、ホフマン方式により事故当時の現価額を算出すると、次のとおりである。

(年間収入)

95,137円×12月+161,427円+179,713円=1,482,784円

(逸失利益)

1,482,784円×(1-0.35)×8.59011077=8,279,231円(円未満切捨)

(二) 農業所得

いずれも成立に争いのない甲第九号証の一ないし三、同第一〇号証の一ないし六、同第一一号証の一ないし二四、同第一二号証、同第一三号証の一ないし二七、同第一四号証の一ないし七、同第一五号証の一ないし四、同第一六号証の一ないし四並びに原告ツヤ子に対する本人尋問の結果とこれによつて真正に成立したものと認められる同第九号証の四によれば、亡清春は、本件事故当時、前記真鍋造機株式会社に勤務するかたわら、田三五アール及び畑(果樹園)五〇アールを自作し、本件事故当時において一年間に少なくも原告らが請求原因4(一)(2)において主張するとおり、金六五万六三二九円以上の農業収益を得ていたことが認められ、これを覆するに足る証拠はない。

原告ツヤ子の供述によると、亡清春は勤務の合間に農業を営んでおり、ツヤ子もこれを手伝つていたというのであるが、原告ツヤ子はヘルニアを患つて十分働けなかつたというので、亡清春の寄与率は八割程度と認めるを相当とする。

また、原告らは亡清春は七五歳まで農業に従事することが可能であつたと主張し、原告ツヤ子の供述によると、平均的な就労可能年限たる前記六七歳をこえて収益をあげうるものと推認できるけれども、亡清春の平均余命などをも考慮すると、農業に従事しうるのは七〇歳までの一四年間と認めるのが相当である。

したがつて、農業収益の逸失利益は、次のとおりである。

656,329円×0.80×(1-0.35)×10.40940667≒3,552,637円(円未満切捨)

(三) 以上のとおり亡清春の逸失利益は合計金一一八三万一八六八円となるところ、同人の過失を斟酌すると、被告らに負担さすべきはその七五パーセントにあたる金八八七万三九〇一円(円未満切捨)である。

そうすると、原告らの相続による取得分は、次のとおりである(円未満切捨)

原告ツヤ子(三分の一) 金二九五万七九六七円

その余の原告(各九分の二) 各金一九七万一九七八円

2  慰藉料

本件に現れた諸事情を総合し、かつ前記亡清春の過失をも斟酌すると、原告らに対する慰藉料は、次のとおりとするのが相当である。

原告ツヤ子につき、金二〇〇万円

その余の原告につき、各金一三三万円

(合計金五九九万円)

3  葬儀費用

原告ツヤ子の供述によると原告ツヤ子が葬儀費用として金五〇万六〇〇〇円程を支出したことが認められ(被告大西町との間では、同原告が金四〇万円以上を支出したことにつき争いがない。)、このうち金四〇万円を本件事故による損害と認め、その七五パーセントである金三〇万円を被告らの負担とするのが相当である。

4  損害の填補

以上のとおり、原告らに生じた損害は合計で

原告ツヤ子 金五二五万七九六七円

その余の原告 各金三三〇万一九七八円

となるところ、原告らが自賠責保険から金一〇〇〇万円の填補を受けたことは弁論の全趣旨によつて明らかであり(被告大西町との間では争いがない)、右は法定相続分に応じて原告らに支払われたと認められるから、原告主張のとおり、

原告ツヤ子につき、金三三三万三三三四円

その余の原告につき、金二二二万二二二二円

の填補があつたものと認められる。

これらを控除すると、

原告ツヤ子 金一九二万四六三三円

その余の原告 金一〇七万九七五六円

となる。

5  弁護士費用

原告ツヤ子本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告らが本訴の提起を弁護士に委任したことが認められ、これらに要する費用のうち、原告ツヤ子について金二〇万円、その余の原告について金一〇万円を被告らに支払わせるのが相当である。

六  結論

以上のとおりであるから、被告らは連帯(不真正)して原告らに対し、次の金員を支払うべきである。

(1)  損害賠償

原告ツヤ子に対し、金二一二万四六三三円

原告和成、同千恵、同健二に対し、各金一一七万九七五六円

(2)  遅延損害金

(1)のうち弁護士費用を除く次の金員について、次のとおり不法行為の日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金

原告ツヤ子につき、金一九二万四六三三円に対し

その余の原告らにつき、各金一〇七万九七五六円に対し、いずれも昭和四九年八月二四日から完済まで。

よつて、原告らの請求を右の限度で正当として認容し、その余を失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条、九四条を、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 岩井俊)

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